POINT
- デザインが思い通りにならない原因は、デザイナーの力量だけでなく、発注者の意図をくみ取り、制作へつなぐ「ディレクション」にある場合もある
- 信頼できる担当者を見極めるには、目的や方向性の整理、原稿の背景の理解、デザイン意図の説明、修正への対応、制作上の責任という視点で判断するとよい
印刷物のデザインが思い通りに仕上がらない原因は、ディレクションを担当する人の力量にあるかもしれません。
「何度も要望を伝えているのに、思い通りのデザインにならない」
「修正するたびに、最初のイメージから離れていく」
このような時、発注者の要望を理解し、デザイン制作を導く「担当者」に注目してください。
私自身、これまでデザイナーへの指示や制作の進め方で失敗を重ねてきました。その経験から、デザインをよりよいものにするには、見た目の好みを伝えるだけでは不十分だと学びました。
この記事では、その経験をもとに、印刷物のデザインを発注する方が、信頼できる担当者を見極めるためのポイントを紹介します。
うまくいかない原因はデザイナー?
見落とされがちなディレクションの役割
印刷物のデザインが思い通りに仕上がらない場合、発注者とデザイナーの間で、制作の目的やデザインの方向性が十分に共有されていないことがあります。こうした認識のずれを防ぎ、デザイン制作をよりよい方向へ導く役割を担うのが「ディレクション」です。
グラフィックデザインにおけるディレクションとは、一般的に、制作の目的や発注者の要望を踏まえてデザインの方向性を決め、デザイナーへの指示や進行・品質の管理を行いながら、制作全体を最適な方向へ導くことを指します。
また、ビジュアル表現についてディレクションを行う人をアートディレクター、企画やコンセプトの立案から制作全体を統括する人をクリエイティブディレクターと呼ぶこともありますが、その役割や担当範囲は会社や制作案件によって異なります。
営業担当、ディレクター、デザイナーがそれぞれの役割を分担することもあれば、営業担当者がディレクションを兼ねたり、デザイナー自身がディレクションを行い、発注者と打ち合わせを行い、制作の方向性を決めたりする場合もあります。
ディレクションは非常に重要
例えば、発注者が「もっと高級感のあるデザインにしたい」と依頼先の担当者に伝えたとします。
依頼先の担当者がその言葉をそのままデザイナーに伝えるだけでは、発注者が考える「高級感」と、デザイナーが考える「高級感」に違いが生じるかもしれません。
発注者がどのような高級感を求めているのか。誰に、どのような印象を与えたいのか。競合他社とどのように差別化したいのか。
こうした背景を確認し、発注者の意図をくみ取ったうえで、具体的なデザインの方向性に落とし込み、デザイナーと共有し、制作目的に合った方向へ導くことがディレクションの役割の一つです。
では、ディレクションの良し悪しは、どのように見極めればよいのでしょうか。
その前に、まずは、私自身の失敗についてお話しします。
ディレクションで失敗した過去の経験
以前、デザイナーにデザインを依頼しても、なかなか思い通りの仕上がりにならないことが続いたことがあります。
はじめは、正直なところデザイナーの力量によるものではないかと考えました。
しかし、何度か同じような経験をするうちに、問題はむしろ私自身の考え方や知識、ディレクションの能力にあるのではないかと思うようになっていきました。
自分の頭の中には完成イメージがある。
それを十分に言葉にしないまま、デザイナーにも同じイメージが伝わっていると思い込み、仕上がったデザインを見て「何か違う」「もう少しこうしてほしい」と修正依頼を繰り返すことになっていたのです。
そのようなことが続き、さすがに私も「本当に必要な情報が十分に共有できていないのではないか」と気づきはじめました。
そして、デザイナーへの依頼方法や制作途中のコミュニケーションを見直すことにしました。
その時、特に意識するようになったのは、次の5つです。
- デザインの方向性をできる限り具体的に言葉で伝える
- 原稿の奥にある背景や意図を聞き取り、情報の優先順位を整理する
- デザイナーにもデザインの意図を説明してもらい共有する
- 修正指示には必ず理由を添える
- 制作上の判断と結果に自分が責任を持つ
こうしたことを意識するようになってから、デザイナーとの認識のずれが少なくなり、以前よりも納得できるデザインに仕上がることが徐々に増えていきました。
いま振り返ってみると、以前の私は、自分が思い描くデザインに近づけることばかり考えていたように思います。
それがお客様のためになり、お客様の意図を満たすことだと真剣に思い込んでいたのかもしれません。
結局のところ、ディレクションを担う立場で必要だったのは、何のためのデザインなのか、誰に何を伝えたいのか。
その目的を達成するために、どのようなデザインが適切なのかということをお客様・デザイナーとともに具現化していくことだったのです。
ディレクションに必要な知識と技能
デザインのディレクションには、発注者の要望を理解する力やデザインの知識、それをもとに判断・提案する力が求められます。
- ヒアリング力
依頼者の要望や目的を理解し、言葉にされていない意図まで聞き出す力 - 企画・構成力
情報の優先順位や意図の整理、コンセプト、制作方針を組み立てる力 - デザインの知識
レイアウトや配色、書体、余白などデザインの基礎知識を有し、デザイナーと具体的かつ客観的な視点で話し合える力 - 説明・提案力
デザインの意図や理由を理解し、発注者にもわかりやすく説明・提案できる力 - 進行・品質管理力
制作スケジュールや予算、仕上がりの品質を管理し、問題を解決する力
ただし、ディレクションを担う人が、必ずしも自分で優れたデザインを制作できる必要はありません。
デザイナーの専門性を活かしながら、提案されたデザインが制作目的に合っているかを判断し、適切な方向へ導けることが大切です。
ディレクション担当者を見極める5つのポイント
ここからは、発注者の方が依頼先のディレクション担当者を見極めるためのポイントを紹介していきます。
1. デザインの目的や方向性を具体的に整理できるか
あなたの担当者は、あなたの要望を理解しデザインの方向性を具体的に言語化できているでしょうか。
例えば、発注者が「シンプルで洗練されたデザインにしたい」と希望した場合、担当者が「わかりました」と答え、そのままデザイナーに伝えるだけでは十分とはいえません。
「シンプル」といっても、余白を広く取った落ち着いたデザインなのか、装飾を抑えて情報を整理したデザインなのか、人によって受け取り方が異なります。また発注者が求めるイメージだけでなく、制作の目的やターゲット、どのような印象を与えたいのかまで確認すべきところです。
重要なのは、聞き取った内容を具体的な制作方針に具体的に落とし込めるかどうかです。
ちなみに私の場合は、目的やターゲットを整理したうえで、必要に応じてグリッド拘束率(レイアウトの規則性)やジャンプ率(文字サイズの強弱)など、デザインの印象を左右する要素についても、できる限りデザイナーと話し合うようにしています。
もちろん、発注者がこれらの専門用語を理解する必要はありません。
発注者の漠然としたイメージを具体的な制作方針に整理し、デザイナーと共有することが、ディレクションを担う人の役割だからです。
2. 原稿の背景や意図を聞き出し、情報の優先順位を整理できるか
あなたの担当者は、単に原稿を預かるだけでなく、そこに書かれていない背景や意図まで確認しようとしているでしょうか。
パンフレットやポスターなどの印刷物では、紙面に掲載する情報をすべて同じ大きさで整然と配置すればよいというわけではありません。何を最初に見てもらい、次に何を伝え、最終的にどのような理解や行動につなげたいのか。その伝える順序と情報の優先順位によって、ページ構成やレイアウトは変わります。
例えば、商品紹介パンフレットで、発注者が「商品の特徴をすべて掲載したい」と希望したとします。
その時、ディレクション担当者は原稿を受け取るだけでなく、「特に訴求したい商品の強みは何か」「お客様が購入を検討するとき、最初に知りたい情報は何か」と一緒に考えてくれるでしょうか。
恥ずかしいことですが、以前の私は、原稿に書かれた内容だけで、デザイナーにも意図が伝わると思っていました。
しかし、原稿には書かれていない想いやこだわりがあります。なぜその情報を掲載したいのか、その背景を知ることで、情報の優先順位や見せ方が変わることもあるのです。
例えば、原稿では同じように紹介されている商品の二つの特徴も、話を聞くと、一方は競合他社にはない独自の強みで、もう一方は業界では一般的な特徴ということがあります。
その違いを知らずにデザインすれば、本来伝えたい強みが、ほかの情報に埋もれてしまうかもしれません。
だからこそ、背景にある意図を理解し、デザインの目的に照らして情報を整理する必要があるのです。
原稿に何が書かれているかだけでなく、なぜそれを伝えたいのか。その背景まで聞き出し、デザインに反映しようとしてくれるか。そこにも、ディレクション担当者の力量が表れます。
3. デザインの意図を説明できるか
あなたの担当者は、デザインの意図や理由をわかりやすく説明できているでしょうか。
例えば、デザイン案を提示されたとき、次のように尋ねてみてください。
「なぜ、このレイアウトにしたのですか?」
「なぜ、この色や書体を選んだのですか?」
「今回の目的に対して、どのような効果を狙ったデザインですか?」
デザインの意図を具体的に聞くことで、自分が気づかなかった視点や工夫を理解できるようになります。そして、その説明は、デザインを単なる好みではなく、制作目的に照らして判断するための材料になります。
もちろん、デザイナーの提案が常に正しいわけではありません。意図を理解したうえで、別の表現方法も含めて一緒に考え、目的とのずれを修正していくことに意味があります。
だからこそ、大切なのは、担当者がデザイナーの説明をそのまま伝えるのではなく、その意図を理解し、発注者の立場に立ってわかりやすく説明できるかどうかと言えるのです。
4. 修正の理由を確認し、改善方法を提案できるか
あなたの担当者は、あなたの指示どおりに修正を進めるだけでなく、その真意をくみ取ろうとしていますか。
例えば、発注者が担当者に「この見出しをもっと大きくしたいんですが」と伝えたとします。
もしそれによってデザインのバランスが崩れるのであれば、プロとしてその問題を説明し、別の改善方法を提案する必要があります。そもそも、発注者が求めていたのは、文字を大きくすることではなく、その情報をもっと目立たせることかもしれません。それなら、余白や配色、配置などを工夫する方法も考えられます。
もちろん、誤字の訂正など、指示どおりに対応すべき修正もあります。しかし、デザインの方向性や見せ方に関わる修正では、その理由を確認しなければ、本来の問題を解決できないこともあります。
大切なのは、発注者の要望にただ従うことでも、制作側の意見を一方的に押しつけることでもありません。
単なる伝言役ではなく、発注者が何を改善したいのかを理解し、デザイナーとともに適切な方法を考え、提案できるか。
そこに、ディレクションを担う人の力量が表れます。
5. 制作上の判断と責任を引き受けているか
デザインが思い通りに仕上がらなかったとき、担当者はその原因を考え、自分が中心となって解決しようとしてくれるでしょうか。
以前の私は、仕上がりが思い通りにならないと、デザイナーの力量に原因を求めていました。
しかし本来は、デザインの方向性を決め、制作中の判断を行う立場であれば、その結果をデザイナーだけの責任にするべきではありません。
うまくいかないときは、自分の指示が曖昧ではなかったか、デザインの知識が不足していなかったか、デザイナーとの認識にずれがなかったか、制作途中で確認すべきことを見落としていなかったかを振り返るようにしています。
そして、制作上の判断と責任を自分が引き受ける姿勢を大切にしています。
あなたの担当者が問題にどう向き合うかは、ぜひ見ていただきたいところです。
例えば、何度修正しても希望したデザインにならないとき、
「デザイナーがこのように作ったので」
「デザイン担当者に伝えておきます」
という説明だけで終わっていないでしょうか。デザイナーへの確認や伝達は必要ですが、それだけでは同じ問題を繰り返すかもしれません。なぜ認識がずれたのかを確認し、改善に向けて調整することも担当者の役割です。
そもそも、発注者はデザインの専門家ではないのです。
希望をうまく言葉にできなかったり、適切な修正方法がわからなかったりするからこそ、制作会社に相談するのではないでしょうか。
発注者の要望を理解し、デザイナーの専門性を活かしながら、制作目的に合ったデザインへ導く。そして、問題が起きたときも他人任せにせず、解決に向けて自ら動く。
担当者がその姿勢を持っているかどうかを、ぜひ見極めていただきたいと思います。
デザインの修正指示やイメージの伝え方について詳しく知りたい方は、デザインイメージの伝え方|依頼時のポイント4選も参考にしてください。
まとめ|デザインの仕上がりだけでなく、制作を導く人にも目を向ける
デザインを発注する際、信頼できる担当者かどうかを見極めるには、肩書や過去の制作実績だけでなく、実際の打ち合わせや制作途中の対応を見ることが大切です。
今回紹介した5つのポイントを、チェックリストにまとめました。
担当者のディレクション力を見極めるチェックリスト
| 確認するポイント | |
|---|---|
| □ | デザインの目的や方向性を具体的に整理できるか 目的やターゲット、与えたい印象を確認し、具体的な制作方針として共有してくれる |
| □ | 原稿の背景や意図を聞き出し、情報の優先順位を整理できるか 原稿に書かれていない背景や意図まで確認し、何を優先して伝えるべきか考えてくれる |
| □ | デザインの意図を説明できるか デザイナーの制作意図を理解しデザインの理由をわかりやすく説明してくれる |
| □ | 修正の理由を確認し、改善方法を提案できるか 必要に応じて修正理由を確認し、目的に合った改善方法を提案してくれる |
| □ | 制作上の判断と責任を引き受けているか 問題が起きたときに原因を振り返り、解決に向けて主体的に動いてくれる |
発注前の打ち合わせでは、目的や要望の聞き取り方、過去の制作事例の説明などを確認できますが、修正への対応や問題が起きたときの姿勢は、制作が始まってから見えてくる部分です。
誰に、何を伝えたいのか。何のために制作するのか。
目的を共有し、デザイナーの専門性を活かしながら、適切なデザインへ導くディレクションの役割を果たしているかを、制作途中でも常に意識すると良いでしょう。
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このお役立ち記事は、私がこれまでにお客様のプロモーション課題に取り組んできた経験や、お客様からお寄せいただいた質問をもとに執筆しています。印刷やデザインに関する情報を、マーケティングの観点も交えながら、読者の方に少しでも分かりやすくお伝えする事を心掛けています。
執筆:田中|WEB担当
監修:谷脇|グラフィックデザイナー



















